あと30日で、他人に戻るふたり
午後の打ち合わせは、思ったよりもあっさり終わった。


方向性は決まっている。
あとは細部を詰めるだけ。

それなのに、どこかしっくりこないまま席に戻る。


「穂村」

背後から落ちてきた声に、肩がわずかに揺れる。

振り返ると、八代さんが立っていた。

「今、大丈夫?」

「はい」


私がうなずいたのを見て、彼はちょうど今終わったばかりの手元の資料に目を落とした。

「さっきのこれさ、」

覗き込むようにして、指先でページをめくる。

「だいぶ良くなったよね」


不意の肯定に、一瞬だけ思考が止まる。


「でも、ちょっと“優等生”すぎるかもなーって思って」

そのままさらっと続けられて、ふわりと浮き上がりかけた気持ちが着地した。

「……優等生、ですか?」

「うん。ちゃんとしてる。ちゃんとしてるんだけど」

視線がこちらに上がる。

「なんか、引っかかりがないんだよな」

言葉は柔らかいのに、どこか逃げ場はない。
指摘は鋭いのに、少しだけ曖昧で、そして抽象的にも思える。


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