あと30日で、他人に戻るふたり
「たとえば、どのへんですか?」

「んー……」

少しだけ考える素振りをしてから、ふっと笑う。

「これ、穂村っぽくない」

「────え?」


一瞬、言葉の意味を測りかねる。


「もっとさ、現場で困ってることとか、いつも見てるでしょ?」

軽く首を傾ける仕草をして、ぽんと肩に手を置かれた。

「それ、ちゃんと入れた方がいい。もったいないよ」


“ちゃんと”という言葉に、胸の奥がわずかにざわつく。


前にも、八代さんに似たようなことを言われた気がする。
そのときは、ただ“見てくれてるのかな、すごいな”と思っただけだったのに。


別な人がくれた、“ちゃんとしてる”の方が、私には響いている。

『穂村さんは、ちゃんとしてるよ。俺よりよっぽど』

そう、ソファにもたれて言われたそっちの言葉の方が強く残っていた。


「……分かりました。もう一度、修正入れます」

うなずきながらも、どこか引っかかる。


正しい。
たぶん、言ってることは正しい。

でも、なにかだけが、うまく飲み込めない。


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