あと30日で、他人に戻るふたり
テーブルの下には、案の定パンの袋が落ちている。

「またパン…」

つぶやくと、彼はスマホに目を向けたままうなずいていた。

「一番手軽なんだよ、パンって」

それだけの理由なのも、まさに“生きるため”。


テレビはすでについていた。

静かな部屋に、ひとつだけ聞こえてくる賑やかな笑い声。
それをBGMみたいにして、彼はスマホを眺めている。


ロコモコ丼は、案外ボリュームがあった。
とても美味しかったのだけれど、半分と少し食べ進めて、ついに箸が止まる。

「……食欲ないの?」

ふと後ろから尋ねられて、私は首を振った。

「いや、美味しいんです。美味しいんですけど、量が多すぎて」

お腹をさすって、背中をソファに預ける。

「残すなら食べようか」


あまりに自然に言われたので、理解するまでに時間を要した。

考えるより先に、

「あ……どうぞ」

なんて口にしてしまった。


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