あと30日で、他人に戻るふたり
食べ終わったお弁当を片付けにキッチンに立つと、テーブルに置いていた彼のスマホが鳴るのが聞こえた。

着信音が、昨日の夜に聞いたものと同じだった。


ソファにもたれていた彼が、飛び起きるのが視界に入る。

すぐにスマホを手に取って電話に出ていた。


────え。まさか、二日連続で呼び出し?
そんなにシステムエラーって起こるもの?

思わずキッチンからリビングをうかがうと、彼はスマホを耳に当てながら「今から行きます」と言っているのが聞こえた。


「あ、穂村さん。ちょっと出てくるね」

電話を終えた彼が顔を上げる。

「こんなに頻繁にトラブルってあるんですか?」

「うん、今回はリリース周りでコケてる」


まったく分からない内容を話され、とりあえず首をかしげつつもうなずく。

もう彼は上着だけ抱えて鞄を持っている。
素早いにも程がある。


「遅くなると思うから、先に寝てて」

「……分かりました」


私が返事をするかしないかのうちに、リビングを出て行ってしまった。


取り残されたみたいな感覚になってから、はっと我に返る。
急いでリビングのドアを開けて、廊下の先にある玄関にもういる彼の背中に声をかけた。

「藍沢さん!」

勢いづいて呼んだものの、振り返った顔に特別ななにかを投げかける余裕は、なかった。


「あの、……いってらっしゃい」

「うん。行ってきます」


彼はふっと笑って、そのまま出ていった。

ドアが閉まる音だけが、静かに残った。



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