あと30日で、他人に戻るふたり
改札を出ると、駅前は人で溢れていた。

あちこちから楽しそうな声が聞こえてきて、土曜日の空気がそこら中に広がっている。

その中に紛れると、自分も街の一部に溶け込んでいるみたいに思えた。


待ち合わせ場所には、先に優奈が着いていた。


「あ、優奈。おは──」

“おはよう”を言い終えるうちに、彼女に抱きつかれた。

「美月!詐欺られたー!!」

大声で騒がれて、周りの人達がこちらに一斉に注目するのが分かる。

慌てて彼女の手を引くと、すぐに歩き出す。


「分かった分かった、話ならいったんどこか入ろう。どこにする?」

「どこでもいい…」

「めちゃくちゃ落ち込んでるじゃん。大丈夫?」

「大丈夫じゃないから呼び出したの!」


はいはい、と優奈を引っ張り、とにかくこの場所から離れようと近場にあった少し賑やかなカフェに入った。


木目調の店内は女性客の話し声で騒がしい。
このお店なら優奈がちょっとやそっとやかましい声を出しても大丈夫そう。

少し並んで、テーブルに案内されるやいなや、優奈はドン!と手のひらでメニューを叩いた。
メニューには罪はないのに。


「写真と!実物が違いすぎる!」

早速愚痴が始まったので、私は彼女の手からそっとメニューを抜き取る。

「なに食べる?とりあえずAランチでいいね?」

「食後はアイスコーヒー。砂糖増し増し!」

「分かった」

今すぐ話したそうな優奈を押さえつつ、私が店員さんにランチを注文した。


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