彼と彼女の、最大の不具合
そして迎えた最終審査の日。
会議室の長いテーブルの向こうには役員たち。プレゼンは私が担当した。手が震えないと言えば嘘になる。でも、横に並んで座る右京くんの存在が、不思議と心を落ち着かせてくれる。
「本製品は、高保湿性能と製造安定性の両立を実現しました」
自分でも驚くくらい、声ははっきり出ていた。
データの説明、処方の工夫、量産性の担保——全部、やれることはやった。
説明を終えて、静寂が落ちる。
数秒後、役員の一人が口を開いた。
「…非常に完成度が高い。承認しよう」
その一言で、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
「——っ、はぁ…」
思わず息を吐く。終わった。いや、通った。やったんだ、私たち。
会議室を出た瞬間、足の力が抜けそうになる。
「右京、香坂おつかれ」
会議室から出てきた研究開発部の部長が、珍しく表情を崩して嬉しそうに笑っている。その顔を見た瞬間、ようやく全部終わったんだって実感がじわじわ湧いてきた。
「しかし、お前ら。今回結構スムーズだったんじゃないか?」
探るような、でもどこか感心したような声音に、思わず右京くんの方を見る。
「まあ、そうですね」
私が答えるより先に、右京くんが淡々と返す。その横顔はいつも通り落ち着いているけど、ほんの少しだけ肩の力が抜けているように見えた。