彼と彼女の、最大の不具合

*

*

*



それから数週間、ラボはこれまでにないくらい張り詰めた空気に包まれていた。

試作、評価、修正、再試作——その繰り返し。

私の処方と右京くんの設計は何度もぶつかって、そのたびに擦り合わせて、少しずつ形になっていった。


「香坂、このロット安定してる。昨日のより数値いい」

「ほんと?…あ、ほんとだ」


モニターに表示されたデータを覗き込む距離が、前より自然と近くなっていることに気づいて、少しだけ意識してしまう。でも今はそれどころじゃない。


「これなら、いけるかも」


小さく呟くと、右京くんも「そうだな」と短く答えた。無駄のない声。でも、その奥に少しだけ安堵が混じっているのがわかる。


そこからは一気だった。


最終処方の確定、スケールアップ試験、量産ラインでのテスト——どれも大きなトラブルはなく進んでいく。


「嘘でしょ…こんなにスムーズなの初めてなんだけど」


思わず笑うと、右京くんが肩をすくめた。


「最初に揉めたからな。潰せる問題はだいたい潰した」


確かに、あの言い合いがなかったらここまで来れてなかったかもしれない。悔しいけど、認めるしかない。


< 9 / 140 >

この作品をシェア

pagetop