彼と彼女の、最大の不具合
「どこ行ってた?」
低くて少し抑えた声でそう聞かれて、「え?山口と…」と何気なく答えた、その瞬間だった。
ぐっと強い力で肩を引き寄せられて、一気に距離がゼロになる。気づいたときには大きな体にすっぽりと包み込まれていて、右京くんの胸に押しつけられる形になっていた。
ふわっと漂ってくるのは爽やかな柔軟剤の香りで、あまりにも近すぎる距離に頭が真っ白になる。
「…っ、え?」
何が起きたのか理解が追いつかなくて、ただ戸惑いの声だけが漏れる。
「だめだよ、香坂」
耳元で低く囁かれて、その声が直接鼓膜を震わせるみたいに響いて、びくっと体が跳ねるのと同時に、抱きしめる腕にさらに力がこもるのが分かる。
「(な…!?なにが起こってるの!?)」
突然のことに体がついていかなくて、どうしていいか分からないまま固まってしまう。手の行き場も分からなくて宙に浮いたまま、完全にされるがままの状態だ。
「(もしかして今…抱きしめられてる…?あの右京くんに…?)」
ようやく状況を認識し始めた瞬間、心臓が一気に暴れ出す。右京くんの顔が私の首元に埋まっていて、柔らかい黒髪が頬に触れてくすぐったくて、その感触がやけにリアルで、抱きしめられているという事実がじわじわと実感に変わっていく。
それと同時に顔に熱が集まっていくのが自分でもはっきり分かってしまう。
「(どどどど!?どうしたの、右京くん!?あと、だめってなに!?なにが!?)」
頭の中は完全にパニック状態で、さっきまでの余裕なんてどこにもなくなって、緊張と戸惑いと、それから抑えきれないくらいの嬉しさが一気に押し寄せてきて、思考がぐちゃぐちゃにかき乱されていく。
この状況をどう受け止めればいいのか分からないまま、ただ強く抱きしめられているその温もりだけがやけに鮮明に感じられて、頭がオーバーヒートしそうだ。