彼と彼女の、最大の不具合
「(………………好きだなぁ)」
ふと、そんな言葉が心の奥に落ちる。右京くんのすべてに振り回されて、勝手に期待して勝手に落ち込んで、ほんとに面倒くさいくらい忙しい感情なのに、それでもやっぱり好きだなぁ…。
「…私も、右京くんに名前で呼ばれたい」
恥ずかしさに耐えきれず俯いたまま、ぽつりとそう呟くと、少しだけ間があって、頭上から柔らかい声が降ってくる。
「…茉白」
「……。」
たった名前を呼ばれただけで、胸の奥が一気に熱くなる。理由なんてうまく説明できないのに、なぜか泣きそうになってしまって、どうしてこんなに特別みたいに感じてしまうのか自分でも分からない。
顔を上げられないまま、視線だけが落ちていく床を追って、心臓だけがうるさいくらいに暴れている。
「(………………好き。大好き。大好き)」
そんな言葉が頭の中で何度も繰り返されて、止めようとしても勝手に溢れてくる。呼吸の仕方さえ忘れそうで、ただそこに立っているだけなのに、右京くんの存在がすぐ近くにあるだけで、全部が揺らいでしまう。
「…茉白」
もう一度、少しだけ低く、でもさっきよりも柔らかい声で名前を呼ばれて、今度はさっきよりもはっきりと熱が広がる。
「……っ」
返事もできないまま、ただ小さく息を呑む。名前を呼ばれるだけでこんなになるなんて、ずるい。ずるいのに、嬉しい。
大好き。
……………大好き。
そのまま何秒か分からない時間が流れて、ようやく少しだけ顔を上げると、目の前の右京くんと視線がぶつかる。逃げたくなるくらい真っ直ぐで、でも不思議と怖くはなくて、その代わりにどうしようもなく胸が騒ぐ。
「…なに、その顔」
右京くんが小さくそう言って、ほんの少しだけ目を細めた。その表情がいつもより柔らかく見えて、また息が詰まる。