彼と彼女の、最大の不具合
「…反則、だよ」
やっとそれだけ絞り出すと、右京くんはほんのわずかに首を傾けて、「何が」とでも言いたげな顔をする。その無自覚さがさらにずるくて、私はもう完全に負けている。好きになったら負けというのなら、私は右京くんに出会ったころからとっくの間に負けている。
「…何が反則?」
静かにそう聞かれて、言葉がまた喉の奥で止まる。そんなの、説明できるわけがない。名前を呼ぶだけで、視線を向けるだけで、距離を詰めるだけで、全部がいちいち特別みたいに感じてしまうなんて。
「…全部」
小さすぎる声でそう漏らすと、右京くんの目が一瞬だけ揺れる。
その変化が見えた瞬間、しまったと思うのに、もう取り消せない。
沈黙が落ちて、部屋の空気が少しだけ静かになる。その静けさが逆に怖いのに、どこか落ち着くみたいでもあって、私は視線を落としたまま動けないでいた。
すると、右京くんが一歩だけ距離を詰める。さっきよりも近いのに、もう逃げようとは思わなかった。
「茉白」
また名前を呼ばれる。そのたった一言で、さっきまで必死に繋ぎ止めていた理性みたいなものが簡単にほどけていく。
「…ほんとに、名前だけでいいの?」
わざとらしく右京くんの顔を見上げる。ほんとにそれだけで満足なの?右京くんはそれでいいの?もっと、何か言いたいこととか、あるんじゃないの?
そんな期待と不安がごちゃ混ぜになったまま、言葉が続きそうになった、その瞬間だった。