彼と彼女の、最大の不具合
「お前、酔いすぎ」
「………え?」
「今日は早く寝ろよ。明日遅刻すんなよ」
「え?あの」
「じゃ、おやすみ」
それだけ言って、あっさりと扉が閉まる。バタンという乾いた音が、やけに部屋に響いた。
「えーっと…?え?」
思考が追いつかないまま、私はその場に取り残される。さっきまでの距離感も、空気も、全部まとめて置き去りにされたみたいで、頭の中だけがぐるぐる回る。
ど、どういうこと!?急に!?
そりゃないよ、右京くん~~っ!
さっきまでのあの雰囲気はどこに行ったの。名前呼ばれて、心臓が爆発しそうになって、変な覚悟までしかけてた私の立場はどうなるの!
「……いや、ほんとに」
一人でぽつりと呟いても、当然返事はない。
じわじわと恥ずかしさが戻ってきて、さっき自分が言ったことや考えていたことが一気にフラッシュバックする。熱くなった顔を手で覆いながら、私はその場にしゃがみ込んだ。
「なにあれ……なにあれ……」
期待してた分だけ、反動がひどい。胸の奥がまだ落ち着かなくて、さっきの「茉白」が何度も頭の中で繰り返されるのに、現実はあまりにもあっさりしている。
「右京くんのばか……」
そう呟いてみても、もちろん聞こえるはずもなくて。
ただ、静かな部屋の中で、さっきまでの出来事だけがやけに鮮明に残っていた。