彼と彼女の、最大の不具合
「この配合、もう少しナノ化の粒径を揃えた方が安定すると思うんですけど」
そう言いながら、香坂の手元を覗き込むように少しだけ身を寄せる。その距離は仕事上のものだと分かっているはずなのに、妙に目に入る。
「……そうだね、そこはもう一回見直そうか」
香坂はいつも通り答えているけれど、初日より距離が近くなってないか?やっぱり昨日、なにかあったのか?
仕事中だというのに、そんなことばかりが頭を占領していく。
「右京くんはどう思う?」
不意に名前を呼ばれて、思考が強引に現実へ引き戻される。
「え?あぁ……」
一瞬遅れて返事をしながら視線を上げると、山口さんと香坂の視線がこちらに向いていた。香坂は表情を変えないまま資料を見ているのに、その指先だけがわずかに止まっているのが見える。
「粒径のばらつきは、確かにもう少し抑えた方が再現性は上がると思う」
ようやくそう答えると、山口さんが「ですよね」と軽く笑った。
「じゃあそこは条件振ってもう一度やりましょうか」
山口さんがそう言って香坂の方を見ると、香坂は小さく頷いた。
「うん、それでいいと思う」
山口さんに向かって、笑顔を向ける香坂。それも、いつも通りのはずなのに。なのに、どうして今日はこんなにも目について仕方がないのか分からない。
山口さんが資料をまとめて「じゃあ準備してきます」と出て行くと、研究室に残ったのは俺と香坂のふたりだけになる。さっきまで周囲にあった雑音が消えた途端、妙に静けさが際立って、空気だけが重く沈んだ気がした。いてもたってもいられず、気づけば名前を呼んでいた。
「茉白」
その瞬間だった。
「……っ!」