彼と彼女の、最大の不具合
今しかない。逃げ道なんていらない。ちゃんと、言葉にしたかった。香坂に、全部知ってほしかった。
「茉白、俺……」
一世一代の告白のチャンス。喉の奥が熱くなる。心臓の音がうるさいくらい響いている。
今言えば、きっと全部変わる。そう分かっているのに――
「大丈夫ですか!?ものすごい音しましたけど!」
扉の向こうから飛び込んできた声に、空気が一瞬で現実に引き戻された。俺は固まったまま、言いかけた言葉を飲み込む。香坂もまた、はっと我に返ったように視線を逸らす。さっきまでの熱が嘘みたいに、研究室の空気だけが現実に戻っていく。
「……大丈夫、ちょっと割れただけです!」
香坂が先に声を張る。その声はいつも通りを装っているのに、明らかにわずかに上ずっていた。扉の向こうで足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ゆっくり息を吐く。
「(……最悪のタイミングだろ)」
今しかない。逃げ道なんていらない。ちゃんと、言葉にしたかった。香坂に、全部知ってほしかった。
「茉白、俺……」
一世一代の告白のチャンス。喉の奥が熱くなる。心臓の音がうるさいくらい響いている。
今言えば、きっと全部変わる。そう分かっているのに――
「大丈夫ですか!?ものすごい音しましたけど!」
扉の向こうから飛び込んできた声に、空気が一瞬で現実に引き戻された。俺は固まったまま、言いかけた言葉を飲み込む。香坂もまた、はっと我に返ったように視線を逸らす。さっきまでの熱が嘘みたいに、研究室の空気だけが現実に戻っていく。
「……大丈夫、ちょっと割れただけです!」
香坂が先に声を張る。その声はいつも通りを装っているのに、明らかにわずかに上ずっていた。扉の向こうで足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ゆっくり息を吐く。
香坂の横顔を見ると、さっきまでの距離がまだ消えきっていないのが分かってしまう。香坂は破片の方に視線を落としたまま、ほんの少しだけ唇を押さえていた。その仕草一つで、また心臓が音を立てる。
「(……お願いだから、仕事中にそんな顔すんな)」
バタバタと足音が近づいてきて、山口さんが掃除道具を抱えて駆け込んできた。
「ごめん、山口!弁償する!」
「いいですよ、別に。よくあることじゃないっすか」
山口さんの存在に、あからさまにホッとしている香坂を見て、一瞬でキスしたことを後悔した。やらなきゃよかった、とは思いたくない。そう思いたくないのに。