彼と彼女の、最大の不具合



「それで?話したいことってなに?」

「あー、コラボ商品の試作品の期限の話なんだが」


一瞬、肩の力が抜ける。けれど同時に、別の意味で妙な疲れが残ったままだった。


「……それなら、スケジュール見直せばいいだけだろ」

「まぁそうなんだけどさ。お前さっきから全然集中してないだろ」

「別にしてる」

「してるやつの顔じゃないんだよな、それ」


軽く笑いながら言う霧島に、返す言葉が見つからない。画面に視線を戻したふりをしても、数字はもう頭に入ってこなかった。


「天音。仕事とプライベートは別、だろ」


霧島の声に、ハッとする。


「…悪い」

「しっかりしてくれよ」


呆れたようにため息をつく霧島。


「分かってる」


そう返しながらも、全然分かっていない自覚だけが残る。

仕事とプライベートは別。そんなの当たり前だ。頭では何度も繰り返しているのに、現実はまるで逆をやっている。出張3日間の出来事が、仕事の空気にまで勝手に侵食してきている。


「(……違う)」


侵食されてるんじゃない。こっちが勝手に持ち込んでるだけだ。香坂の横顔、触れた頬の熱、あの一瞬の沈黙。それをなかったことにできないまま、仕事の中に引きずっているのは俺の方だ。

もう、考えるのはやめよう。

香坂に避けられてる。

それだけで、諦める理由は十分だろ。

そう結論づけた瞬間、少しだけ呼吸が楽になった気がした。


「(これでいい)」


自分に言い聞かせる。もう考えるな。もう見なくていい。

そう思ってパソコンに視線を戻すのに、数秒後にはまた香坂を見ている。その繰り返しが、やけに滑稽だった。


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