彼と彼女の、最大の不具合
「じゃあ、今からでも伝えるべきだろ?」
「…もう、無理だろ」
「なんでだよ」
「避けられてるし、俺のこと怖いと思う」
霧島はそこで一瞬だけ動きを止めて、ゆっくり俺の方を見る。
「……それ、お前が勝手に決めてるだけだろ」
「は?」
「怖がられてるかどうかなんて、本人に聞いたのかよ」
言葉が詰まる。聞けるわけがない、と思った。でも、それを口に出した瞬間に全部終わる気もして、何も言えなかった。だって、今のままだったら、まだ勝手に諦めるだけで終われる。好きという気持ちは消さなくても済むだろ。伝えてしまって振られたら、もう香坂の顔すら見れないだろ。
そんな未来を想像しただけで、喉の奥がぎゅっと詰まる。
「避けられてる気がするだけで、全部終わらせんの?」
「……実際、避けてるだろ」
「そりゃあな。いきなりキスされたら距離取るだろ普通」
ぐうの音も出ない。霧島はジョッキを持ち上げて、一口飲んでから続ける。
「でもそれって、終わりじゃなくて、香坂さんの中で整理してる最中の可能性もあるだろ」
「……整理?」
「そう。お前が勝手に踏み込んだ分、向こうは追いついてないだけかもしれない」
その言葉に、思考が一瞬止まる。追いついてない、という表現が妙に引っかかった。
あの時の香坂の顔が、脳裏に浮かぶ。
「お前さ、嫌われたって結論に逃げてるだけじゃね?」
「逃げてるって……」
「だってその方が楽だろ。諦める理由になるし」
胸の奥を見透かされたみたいで、視線を逸らすことすらできなかった。
「ほんとに怖がられてるかどうかなんて、ちゃんと向き合ってから判断しろよ。お前がやったことは消えねぇけどさ。そのあとどうするかは、まだ選べるだろ」
「(………………選べる、なんて簡単に言うけど)」
俺は何も言えないまま、手元のビールを見つめる。泡はもうほとんど消えていて、ぬるくなっていた。さっきまで感じていた苦さも、今は曖昧にぼやけていて、何を飲んでいるのか分からないような感覚になる。