彼と彼女の、最大の不具合
④ 最大の不具合
香坂茉白の場合
あー、今日も疲れたぁ、なんて思いながら、ちらと遠くのほうで顕微鏡を覗いている右京くんを横目に、手元の紙をくるくると指で丸めては戻して、また丸めてを繰り返す。
意味なんてない。ただじっとしていると、余計なことばかり考えてしまうから、手だけでも動かしていたかった。
「……。」
結局今日も、右京くんとまともに会話することなく一日が終わろうとしている。あの日から、気づけばもう一か月が経っていた。たった一か月のはずなのに、体感ではもっとずっと長い気がする。
研究員の人たちからは「別れたの!?」なんて言われたりして、内心どう反応すればいいのか分からなかった。
一体いつから、私たちは付き合ってるなんて前提になっていたんだろう、なんて考えてしまって、少しだけ可笑しくなる。
でもすぐに、その笑いも引っ込んだ。
「(……ずっと、私の一方的な片思いなのにね)」
心の中で呟いたその言葉が、やけに重く落ちる。
自分でも分かっていたはずだ。
右京くんはそういう態度を取る人じゃないし、勘違いしていい関係でもなかった。
それでも、あの距離感に甘えていたのは確かで、隣にいられることを当たり前みたいに感じていたのも事実だ。
だからこそ、あの日のことが、どうしても整理できないまま残っている。