彼と彼女の、最大の不具合
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「はぁ!?あいつのこと殺してやる!」
仕事終わり、エントランスを抜けた私を待ち構えていたのは結衣だった。
半ば強引に腕を引かれて、そのまま近くの居酒屋に連れていかれて、気づけばテーブルの上にはジョッキとお通しが並んでいる。
逃げる隙もなく、出張中のことをぽつぽつ話してしまった結果がこれである。
結衣は今にも立ち上がりそうな勢いでテーブルを叩いていて、周りの視線が少しだけ気になるけど、それよりも自分の話した内容の方が頭の中でぐるぐるしていた。
「で?なんでそんなことになってんのよ」
呆れたように言われて、ぐっと言葉に詰まる。そもそも、なんでこんな状況になっているのか、自分でもうまく説明できない。
「社内で噂になってるよ。“右京と香坂が別れた”って」
「いやだから、何回も言わせてほしいんだけど、付き合ってないからね?私の一方的な片思い!それだけ!!」
言い切った瞬間、胸の奥がちくっと痛んだ。分かっていたはずのことを、改めて言葉にすると、どうしてこんなに重く感じるんだろう。
「話そうにも、なんとなく気まずくてさ…」
視線を逸らしながらそう言うと、結衣はすぐに「そりゃそーよ!」と頷いた。
「というか普通はあっちから話してくるもんでしょ?」
「…うーん」
曖昧に濁すしかない。右京くんのことだから、きっと私を怖がらせないように、とか、余計なことを考えて距離を取ってるんだと思う。そういう人だって、分かってる。分かってるからこそ、余計にどうしていいか分からなくなる。
「(……優しいんだよね)」
その優しさに甘えてきたのは、きっと私の方だ。そう思った瞬間、胸の奥がじんわり熱くなって、視界が少しだけ滲む。