彼と彼女の、最大の不具合
「……ちょ、なに、泣くの?」
結衣の声に、慌てて首を振る。
「泣いてないし」
強がってみせるけど、声が少しだけ震えているのが自分でも分かる。
「……なかったことにされたくない」
ぽつりとこぼれた本音に、結衣の動きが止まった。
「……茉白」
「だって私、ちっとも嫌じゃなかった」
あのとき、驚いたし、びっくりしたし、どうしていいか分からなかったけど――嫌だなんて、一度も思わなかった。ただ、あまりにも急で、何も追いつかなかっただけで。
「好きだもん!私が、右京くんのこと一番好きだもん!!!」
思いがあふれて、しまいにはボロボロと涙がこぼれてきてしまった。
「わー!」と結衣が慌てたように私の顔におしぼりを押し付ける。
「この世で私が一番右京くんのことが好き!あんなかっこいい人、ほかにいないから!好きな人にキスされて、嫌なわけないじゃない!」
言いながら、さらに涙が出てくる。頭の中でずっと溜め込んでたものが、一気に崩れていくみたいだった。
「それより、なにより!今!話せない!目も合わない!この状況が辛いの!」
そこまで言い切って、ようやく息が切れる。肩が上下して、自分でもびっくりするくらい感情が溢れていた。
好きだもん。絶対、絶対、私が一番右京くんのことが好きだもん。右京くんのこと一番わかってるのも私だもん。
だから、お願いだから、あのキスをなかったことにしないでほしい。しなきゃよかった、なんて思わないでほしい。
私のこと、少しでもいいから、好きだと思ったからしたって、そう言ってほしいのに。
「…大丈夫だよ、茉白」
「…ん」
結衣は、よしよしと頭を撫でてくれた。結衣の声に、少しだけ力が抜ける。涙はまだ止まらないままなのに、さっきまでのように息が詰まる感じだけは少し和らいでいた。