彼と彼女の、最大の不具合



「……ちょ、なに、泣くの?」


結衣の声に、慌てて首を振る。


「泣いてないし」


強がってみせるけど、声が少しだけ震えているのが自分でも分かる。


「……なかったことにされたくない」


ぽつりとこぼれた本音に、結衣の動きが止まった。


「……茉白」

「だって私、ちっとも嫌じゃなかった」


あのとき、驚いたし、びっくりしたし、どうしていいか分からなかったけど――嫌だなんて、一度も思わなかった。ただ、あまりにも急で、何も追いつかなかっただけで。


「好きだもん!私が、右京くんのこと一番好きだもん!!!」


思いがあふれて、しまいにはボロボロと涙がこぼれてきてしまった。
「わー!」と結衣が慌てたように私の顔におしぼりを押し付ける。


「この世で私が一番右京くんのことが好き!あんなかっこいい人、ほかにいないから!好きな人にキスされて、嫌なわけないじゃない!」


言いながら、さらに涙が出てくる。頭の中でずっと溜め込んでたものが、一気に崩れていくみたいだった。


「それより、なにより!今!話せない!目も合わない!この状況が辛いの!」


そこまで言い切って、ようやく息が切れる。肩が上下して、自分でもびっくりするくらい感情が溢れていた。

好きだもん。絶対、絶対、私が一番右京くんのことが好きだもん。右京くんのこと一番わかってるのも私だもん。
だから、お願いだから、あのキスをなかったことにしないでほしい。しなきゃよかった、なんて思わないでほしい。

私のこと、少しでもいいから、好きだと思ったからしたって、そう言ってほしいのに。


「…大丈夫だよ、茉白」

「…ん」


結衣は、よしよしと頭を撫でてくれた。結衣の声に、少しだけ力が抜ける。涙はまだ止まらないままなのに、さっきまでのように息が詰まる感じだけは少し和らいでいた。


< 122 / 140 >

この作品をシェア

pagetop