彼と彼女の、最大の不具合
「ほんとあいつは何してんだか……さっさと茉白に告えばいいものを…」
結衣がぽつり呟いて、ため息を吐いた。グラスを指で回しながら、どこか本気で苛立っているような声。
「言えばいいって、なにを…?」
「んーん!あいつがとんでもなくヘタレってこと!もう次の恋いこ!次!」
ほら、飲んで食べて忘れよう!と結衣が勢いよくジョッキを掲げる。
「乾杯!」
明るい声に引っ張られるように、私も小さくグラスを持ち上げた。
「……乾杯」
カチン、と軽い音が鳴る。
次…。次、かぁ…。
右京くんを好きになってから、こんなこと考えたことがなかった。ただ、好きでいるだけで幸せで、それだけで十分だと思っていた。付き合うなんて、恐れ多くて、最初は近づけるとも思っていなかった。
でも気づいたら、もっと欲しくなっていた。隣にいるだけじゃなくて、ちゃんと見てほしくて、言葉で欲しくて、曖昧な距離じゃなくて、ちゃんとした関係になりたくて。
「(……結衣には悪いけど)」
こんな話をしておいてなんだけど、きっと私は、右京くん以上に好きな人にはこれから先出会わないと思う。
「茉白、とりあえず、合コンよ合コン!」
「はは」
乾いた笑いが漏れる。そんな簡単に切り替えられたら、どれだけ楽だろう。
時間が経てば、忘れられるだろうか。
なかったことになるんだろうか、今までの全部。
ほかの人に恋をしたら、記憶に蓋をしないといけないんだろうか。
もう、右京くんと喧嘩することもなくなるんだろうか。
「…っ、う」
またポロポロと涙があふれてきてしまって、慌てて私の隣にきて抱きしめてくれる結衣に思わず笑ってしまった。