彼と彼女の、最大の不具合
今日は、結婚して寿退社する先輩の送別会だ。
いつもは仕事に追われすぎてなかなか研究開発部全体での飲み会は開催されないけれど、これを機にこれからは定期開催しようということで急遽決まった飲み会だったが、以外にも全員出席で、盛り上がっている。
「香坂さん、合コンとか興味ない?」
「うーん、ないですね~」
ビールを飲みながら、「いい飲みっぷりだね〜」なんて言われているのを聞きつつ、適当に笑ってやり過ごしていたそのとき、ふと奥のほうに見覚えのある顔を見つける。女性社員に囲まれて、やけに自然に笑っているその人。
「(ほ〜、いい御身分ですね?彼女いるのに!)」
胸の奥が、じわっと熱くなる。
結衣と飲んだ日以降、というかその前からずっとそうだけれど、今日まで一回も右京くんと話していない。あの日以来、私の怒りはピークだった。最初は、キスされたのに避けられていることが悲しかったはずなのに、今じゃもう違う。
右京くんなんて知らない!タンスの角に小指ぶつけちゃえ!くらいの勢いである。
だって、だっておかしくな〜い?
私にキスしといて、実は彼女いました、なんて許されると思ってるの?しかもあの自然な顔。何事もなかったみたいな顔で笑ってるの、ほんとに何?
「……はぁ」
ため息が出そうになるのを、ビールで無理やり流し込む。
まっ、私はもうどうでもいいけどねっ!そう思うことで自分を落ち着かせようとするのに、視線だけは勝手にそっちへ吸い寄せられる。
「(……あ〜、今日も顔がいい)」
結局そこに行き着く自分が一番腹立たしい。イライラしてるのに、ムカついてるのに、目が離せない。無意識の境地とはこのことだと思う。
周りの笑い声が遠くなって、視界の端だけが妙に鮮明になる。あの人の声が聞こえそうで聞こえない距離。触れられそうで、もう絶対に届かない距離。
そのくせ、まだ心のどこかで「何か言ってくるんじゃないか」なんて期待している自分がいるのが、さらに腹立たしい!