彼と彼女の、最大の不具合



「だって、この前、女の人と歩いてたじゃん……」


思い出した瞬間、胸の奥がズキッと痛んだ。結衣と飲んでた日、偶然見かけた右京くん。綺麗な女の人と並んで歩いていて、そのままジュエリーショップに入っていった。


「女?」

「ジュエリーショップ入っていったでしょ」


そう言うと、右京くんは「あー……あれ見られてたのか」と小さくため息をついた。その反応を見た瞬間、胸がズキッと痛む。
ほら。否定しない。やっぱり彼女だったんだ。期待した私が馬鹿みたい。


「……彼女いるのに、そういうこと簡単に言わないでよ」


唇をぎゅっと噛みながら言い放つ。少しでも気を抜いたら泣きそうだった。夜風が強く吹いて髪が揺れる。好きだから苦しい。好きだから、右京くんの言葉ひとつで簡単に期待してしまう。そんな自分が悔しかった。

すると右京くんは少しムッとした顔になって、何も言わないまま一歩近づいてくる。コツ、と革靴の音が静かな夜道に響いて、その距離が縮まっただけで心臓が大きく跳ねた。


「簡単に言ってるわけねーだろ……!」

「……っ、」

「こっちはもう何年もずっと好きで頭おかしくなりそうなのに、そっちこそ俺の気持ち簡単に決めてんじゃねーよ」


苦しそうに吐き出されたその言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
何年も?右京くんが?私を?
信じられないのに、右京くんの表情が真剣すぎて冗談だなんて思えなかった。


「……っ、じゃあ、誰なのあの人!説明してよ!」


気づけば感情のまま叫んでいた。
本当は嬉しかった。右京くんが好きだって言ってくれたこと、夢みたいなくらい嬉しかった。でも怖かった。期待して、違った時が怖い。だからちゃんと否定してほしかった。安心させてほしかった。


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