彼と彼女の、最大の不具合
右京天音の場合
「は?だから、ここだけは譲れないって散々話したよね!?」
「ここしか削る場所ねーんだよ!ちょっとは妥協しろよ!」
会議室に声が響く。
テーブルに広げられた成分表と資料。その上からバチバチに睨まれて、俺は思わず額を押さえた。今日もいつも通り絶賛言い合い中。周りの研究員はまた始まったって顔してるし、後輩なんか途中から空気になってる。
「(……あー、昨日の今日でなんでこうなるんだよ)」
成分表を見ながら、心の中でため息をつく。
昨日。やっと気持ちを伝えた。ずっと好きだったって。そしたら茉白も、出会った時から好きだったって言ってくれた。あの時の顔、今でも頭から離れない。泣きそうなくらい嬉しそうに笑って、大好きって言った声とか、反則すぎてまともに眠れなかった。
「(それなのに、こいつときたら……)」
ちら、と資料越しに茉白を見る。眉間に皺寄せて成分表を睨んでる顔。
普通、付き合った次の日くらいちょっとは甘くならない?全然変わんねー。
「(……まあ、そういうとこも好きなんだけど)」
結局そこに戻るから悔しい。仕事になると絶対妥協しない。納得いくまで引かないし、自分の考え曲げない。そのくせ誰よりちゃんと努力して結果出すから、言い返せなくなる時もある。腹立つくらい真っ直ぐで、だから目が離せなかった。
「この成分削ったらコンセプト変わるって言ってるじゃん」
「でも予算足りねーんだよ」
「だから他削ればいいでしょ!?」
「だからどこ削るんだって聞いてんの!」
また睨まれる。でも昨日あんな顔見たあとだと、怒っててもどこか可愛く見えるから困る。
……いや、ほんと困る。
ふと目が合う。茉白はムスッとした顔のまま俺を睨んできた。
「なによ」
「いや別に」
そう返した瞬間、昨日のこと思い出して危うく顔が緩みそうになる。