彼と彼女の、最大の不具合
“好きだよ。出会った時から”――あんなこと言われて平然としてられる男いるわけないだろ。今日ずっと、仕事中なのに気抜くと昨日の茉白が浮かんでくる。照れた顔とか、笑った顔とか、俺の手握り返してきた感触とか。思い出すたび心臓がおかしくなる。
「(……集中しろ、集中)」
今は仕事中。無理やり意識を切り替えて、成分表へ視線を落とす。コスト表と睨めっこしながら、削れる場所が本当に他にないか頭の中で組み立て直す。
「ここは?配合率少し下げれば……」
「それやったら保湿力落ちるってデータ出したじゃん」
即答。顔を上げると、茉白が呆れたみたいに眉を寄せていた。
容赦なさすぎる。でもその真剣な顔見てると、やっぱり好きだなって思ってしまうから終わってる。
昨夜はあんなに素直だったのに。彼氏になったからって手加減されると思った俺が甘かった。
「(……ダメだ、集中できない)」
自分で思ってた以上に重症かもしれない。今まで散々隣にいたはずなのに、彼女になった途端、全部意識してしまう。名前呼ばれるだけで嬉しいし、目合うだけで変に緊張するし、さっきから心拍数がおかしい。
「……右京くん?」
「ん?」
「顔赤いけど」
「は?」
反射的に顔を上げると、茉白が怪訝そうにこっちを見ていた。
「熱でもある?」
「……いや」
原因お前だよ、なんて言えるわけない。
「(……ほんと無理)」
好きすぎる。昨日やっと想いが通じ合ったばっかりなのに、もうこんなに振り回されてる自分が悔しい。
でも多分、この先もっと好きになるんだろうなって簡単に想像できてしまって、俺は小さく息を吐きながら再び成分表へ視線を落とした。