彼と彼女の、最大の不具合



声をかけながら頬杖をついて彼女のほうへ身体を向けると、さっきまで大将に向けていた熱量そのままに、今度は俺に向かってぱっと表情を明るくして、「ほんと?」と目を輝かせる。


「あのね、最新の化粧水の話なんだけどーー」


勢いよく話し始める香坂の、楽しそうにパクパクと動く口元がやけに目についてしまって、話の内容よりもそちらに意識が引っ張られている自分に気づいて苦笑するしかない。


入社してすぐ、まだ何もかもが新しくて落ち着かない空気の中で迎えた入社式。広い会場で整然と並べられた椅子に座りながら、何気なく前を見たとき、俺の二列前に座っていた一人の女の子の髪がやけに印象に残った。


そのときはただ「綺麗だな」と思っただけだったのに、その後、研究開発部に配属されて顔を合わせた同期の中に、その髪の持ち主がいたと気づいた瞬間、妙に運命めいたものすら感じてしまったのを覚えている。

それが香坂だった。


そして実際に正面から見た彼女は、髪だけじゃなかった。

いや横顔だって十分すぎるほど可愛いけれど、正面から受ける破壊力は比べものにならなくて、一瞬本気で「天使か?」なんて馬鹿みたいなことを思ったくらいで、結局それは単純で分かりやすい一目惚れだった。


それまでにも彼女と呼べる存在がいなかったわけじゃない。付き合ったことだってある。

けれど心の底から「好きだ」と思えたことは一度もなかった俺にとって、そのときの感覚は衝撃的で、ああこういうのを本当に好きになるって言うのかと、自分でも驚くほど鮮明に心に刻まれた出会いだったのを、今でもはっきりと覚えている。


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