彼と彼女の、最大の不具合
試作が始まってすぐ、案の定、意見はぶつかった。
分かっていたことだ。
「だからそれじゃ意味ないって言ってるだろ」
「意味ないわけないでしょ。結果が出る処方なんだから」
グローバル新製品プロジェクトと聞いて、多くの人はただ規模が大きい仕事だと思うのかもしれないけれど、実際はそんな簡単なものじゃない。国内向けの商品とはまるで違う。
対象になるのは日本だけじゃなくて、アジア、欧州、北米といった複数の市場で、それぞれ気候も文化も肌質も、求められる価値すら違っている。
そのすべてに対して「通用するもの」を作らなければいけない。
例えば湿度の高い地域ではベタつきが嫌われるのに、乾燥の激しい地域では保湿力が足りないと意味がない。同じ処方でも評価は真逆になることだってある。
さらに各国の規制も違う。使える成分、配合濃度、表示方法、その一つひとつをクリアしなければ商品として成立しない。それだけでも十分に複雑なのに、そこにコストと量産性が乗ってくる。
どれだけ理想的な処方ができても、安定して大量生産できなければ意味がないし、価格が高くなりすぎれば市場に出すことすらできない。
研究だけしていればいいわけじゃなくて、製造、品質、マーケティング、営業、すべての部署と連携しながら進めていく必要がある。その中心に立つのが、このプロジェクトの担当者だ。
つまり、自分たちがやろうとしているのは、ただ「いい化粧品を作ること」じゃない。「世界で売れる一つの正解」を見つけることだ。
だからこそ、意見がぶつかるのは当たり前だった。