彼と彼女の、最大の不具合
私は、どの市場でも効果を実感できる処方を作りたいと思っている。使った瞬間に違いが分かるような、誰が使っても納得できる結果を出したい。そのためなら多少コストが上がっても仕方ないと考えている。
一方で右京くんは、どの国でも安定して供給できる設計を優先する。気温や輸送環境が変わっても品質が落ちないこと。誰が作っても同じ品質を再現できること。価格帯として成立すること。
その考えが間違っているとは思わない。むしろ正しい。
でも、それだけじゃ足りないとも思ってしまう。
全部を満たすのが、このプロジェクトの本質だと分かっているからこそ、どちらか一方に寄せることができない。
「コストの話ばっかりしてたら、結局どこにでもあるものになるだけじゃない?それで世界向けって言えるの?」
「逆に聞くけど、それが成立しなきゃただの試作品だろ。市場に出ないものは、存在してないのと同じなんだよ」
「でも出す前に妥協したら、意味ないじゃん!」
「意味がないんじゃなくて、責任を取れねーんだよ!」
右京くんの言いたいことは分かる。分かるけど!でも、そこで引けない自分がいる。
喉の奥がきゅっと詰まるみたいに苦しくなって、ぎゅっと拳を握りしめた。その瞬間、目の前の右京くんが小さく息を吐いたのが聞こえる。
「(…た、ため息…!ため息つかれた!)」
内心ではもうほとんど泣きそうになっているのに、顔だけは必死に崩さない。悔しいのか、悲しいのか、自分でもよく分からないまま、それでもどうしても譲れないものだけは確かに残っている。
「まあまあ、一旦落ち着こうか。日が迫ってるわけでもないし、続きは明日にしよう」
間に入った先輩の声は優しくて、場の空気を和らげようとしているのが分かる。
それでも、どうしても納得できなかった。