彼と彼女の、最大の不具合
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「それで~?何にも進んでないんだ?」
グローバル新製品プロジェクトの試作が始まって、早くも二週間が経っていた。
今日は同期の水瀬結衣と、どこにでもある焼き鳥チェーン店で飲んでいる。
「もうほんと、嫌になるよ…」
肩を落とすと、結衣は苦笑しながらジョッキを傾けた。
「いいものを作りたいっていう茉白の気持ちはわかるけど、その分やっぱりコストは跳ね上がるからね。高いと買ってくれないし」
ブランド戦略・マーケティング部に所属する結衣は、感性とトレンドに敏感なくせに、数字と市場の現実をちゃんと突きつけてくるタイプだ。優しい顔をしているのに、言ってることはわりと容赦がない。
「どうすればいいのかなぁ…」
頬杖をつきながら、ジョッキの中のビールをぼんやり見つめる。泡が静かに消えていくのを眺めていると、自分の考えも一緒に沈んでいく気がした。
「マーケティング部の私から言わせてもらうとね」
結衣は少しだけ真面目な声になって、テーブルの上に肘をついた。いつもの軽いノリとは違う、仕事の顔だ。
「“いいもの”って、必ずしも“最高のもの”じゃなくていいんだよ」
その言葉に、思わず視線が上がる。
「売れるラインに乗ってて、ちゃんと続けられること。そこまでいって初めて“いい商品”って呼ばれるの」
そう言われても、すぐには飲み込めない自分がいる。分かっているつもりなのに、どこかで納得したくない。
「でも、それって…妥協じゃないの?」
ぽつりと漏れた言葉に、結衣はすぐには否定しなかった。ただ少しだけ困ったように笑う。
「妥協って言い方をすると聞こえ悪いけどさ」
一拍置いて、ジョッキを軽く持ち上げる。
「“現実に合わせる”って言い換えたら、ちょっと違うでしょ?」
その言葉が、胸の奥にじわりと残る。右京くんと同じことを言っているはずなのに、違う角度から刺さってくる感じがした。結衣はふっと息を吐いて、「ま、あんたたち二人とも極端なんだよね」と肩をすくめた。