彼と彼女の、最大の不具合
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「じゃあ最初から理想なんて掲げなきゃいいじゃない!」
「理想だけで回るなら、誰も苦労してない」
「それって諦めてるのと同じだよ」
「現実見てるだけだろ」
今日も今日とて、ラボの空気がじわじわと熱を帯びていくのが分かる。周りの研究員たちがおろおろしているのが視界の隅に映っているのに、止まる気配はない。
「右京くんってさ、最初からできない理由探してるよね」
「香坂は、できる理由しか見てない」
「それの何が悪いの?」
「悪くないけど、それだけじゃできないんだよ」
ぴたりと、空気が止まった。ラボに沈黙が落ちる。
「右京、香坂。このままじゃ間に合わないぞ?」
白衣を着た部長が、試作品を一度だけ見下ろす。
「分割してやるしかないな」
その一言に、頭の中が一瞬で真っ白になる。
分割。つまり、同じラインから外れるということだ。
「部長、それはっ…」
「そうですね」
言いかけた私の言葉に、右京くんの声が被さる。その一瞬で、頭が真っ白になる。
しかも、今なんて言った?
「右京くん、何言ってるの?」
「分割したほうがいいだろ。このままじゃ埒が明かない」
「……っ、」
今のままじゃ間に合わない。いい商品を作るどころか、期限だって危うい。それは分かってる。でも。
「……私とは、作りたくないってこと?」
気づけば、そんな言葉が零れていた。
一瞬だけ、右京くんの視線がこちらに向く。そのあと、短く息を吐いたのが分かった。
「はぁ」
そのため息がいつもよりずっと重く聞こえる。このプロジェクトが始まってから、右京くんのため息が増えた気がする。それが全部自分に向けられているようで、息が詰まる。
「部長。それでお願いします」
右京くんのその一言で、すべてが決まった。
プロジェクトは分割して進めることになる。表向きは効率化のため。
でも本当は、私たち二人を同じ場所に置いておくことが難しいと判断された結果だということくらい、痛いほど分かってしまった。