彼と彼女の、最大の不具合
完全に行き詰まっていた、何十回と試作を繰り返しても理想の感触に届かない。
ヒアルロン酸の分子量を変えても、グリセリンの比率をいじっても、肌に乗せた瞬間のあのとろけるのに軽い感覚がどうしても再現できない。データは綺麗に揃っているのに、仕上がりだけがどこか違う。
……だめだ、このまま机に向かってても何も出てこない。
気分を変えようとラボを出て休憩室に向かった。
そのときだった。扉の向こうから聞こえてきた会話に思わず足が止まる。
「分けた方がまずかったんじゃないですかね?」
「まあ、そうだな。あのふたりはなー」
「右京さんと香坂さん、今同じところで止まってますよね?」
わ、私の話だ…!
心臓がどくんと跳ねて、気づけば扉にぴたりと頬をくっつけていた、冷たい金属の感触なんてどうでもいい。
「しょっちゅう喧嘩してるが、いいもの作るんだよな~、あいつら」
うんうん、と思わず頷いてしまう。
そうなの、私たちいつも衝突ばっかりだけど、その分、ヒット商品だって作り上げてきたんだから!
「ふたりに頼ってばかりで申し訳ないですけど、部長に元に戻しましょうって言ったほうが絶対いいですよね?」
「(そうだ、そうだー!私の右京くんを返せー!)」
なんて心の中で叫びながらも、実際に自分から言い出す勇気なんてなくて、白衣の袖をぎゅっと握る。
私は、右京くんが隣にいたほうが絶対にいいアイデアが浮かぶ。処方のクセも、私の思考の流れも、誰より理解してくれていたのは彼だったから。