彼と彼女の、最大の不具合



「部長には俺から言っとくから」


そう言って、右京くんは一歩前に出る。
ふわっと視界が近づいた気がして――次の瞬間、ぽん、と軽く頭に手が置かれた。

一気に体温が上がる。

なにそれ、聞いてない。そういうの、聞いてない。心臓がうるさすぎて、もう何も考えられない。
ずるい。反則。完全に反則だ。

右京くんは何事もなかったみたいに手を離して、そのままラボの方へ歩き出してしまう。


「~~~~っ!!」


その背中を見送りながら、私は両手で思いっきり自分の頬をパン、と叩いた。
じん、とした痛みで、なんとか現実に引き戻される。


「…ふーっ」


大きく息を吐いて、頭の中を無理やり切り替える。さっきまでの甘い空気も、ぐちゃぐちゃの感情も、とりあえず全部脇に置いて。


「……がんばろ!」


小さく、でもはっきりと声に出す。やることは山ほどある。処方の微調整、粘度カーブの取り直し、乳化条件の再設定、そしてQAを納得させるだけのデータ取り。

簡単じゃない。でも、一人じゃない。そう思っただけで、不思議と足取りが軽くなる。

白衣のポケットに手を入れて、私は右京くんの後を追いかけた。


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