彼と彼女の、最大の不具合



「お前ら、また喧嘩してるんじゃないだろうな?」


低くてよく通る声に、びくっと肩が跳ねる。振り向くと、白衣を着た部長がラボの入口に立っていた。


「右京のほうから、やっぱり香坂と一緒にやりたいと言われた。お前らには期待してるから、喧嘩もほどほどにな?」

「…うっ」


ついさっきまで普通に言い合ってました、なんて絶対に言えない。視線が泳ぐ。

右京くんが、そんなふうに言ってくれてたなんて。
ちらっと横を見ると、本人は何事もなかったみたいに資料に目を落としたままだ。

すると、部長はじっと私と右京くんを交互に見てから、顎に手を当てて、にやっと意味深に笑った。


「お前ら、ついに付き合ったか?」

「……はっ!?」


一瞬、思考が真っ白になる。

ぶ、部長はなんてことを言い出すのか。このタイミングで、それを言う!?いや、そりゃあ、思ったことはありますよ。付き合えたらいいな、とか、彼女になれたらいいな、とか!
むしろ毎日のように、ほんの一瞬くらいは考えてる。

でも、それとこれとは話が別で――大体、右京くんみたいに仕事もできて、あんなにかっこいい人が、私なんかを好きになるわけないし!


「部長、それセクハラです」

「そうか?全員、思ってると思うが」


右京くんにそう言われても、部長は悪びれる様子もなく軽く笑った。その言葉に、今度は違う意味で頭が追いつかなくなる。

……全員?今、全員って言った?ラボの空気が一瞬で妙な方向にざわついた気がして、頬が一気に熱くなる。チラ、と周りを見ると、みんなが微妙に目を逸らしたり、資料に集中するふりをしたりしている。明らかに「触れないでおこう」みたいな空気だ。


「(……もしかして、私たちってそう見えてるの!?私と完全無欠な右京くんが!?この王子様が!?)」


心の中で叫びながら、顔がさらに熱くなるのを感じる。いつも喧嘩ばかりで、会えば言い合いばかりで、むしろ険悪に見えていると思っていたのに。まさか逆だったなんて。いや、でも実際のところ、悲しいことに付き合っているわけではないけれど!


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