彼と彼女の、最大の不具合
「何言ってるんですか、今忙しいのでそういうのやめてください」
右京くんはため息混じりにそう言って、呆れた顔で部長を見ている。
「(その顔もかっこいいけど~!)」
心の中で叫びながら、視線だけはどうしても逸らせない。
そっか。そうだよね。右京くんからしたら、そうだよね。
私は一瞬だけ、胸の奥がきゅっと縮むのを感じた。
でもそのときだった。
「忙しいのはわかってるけどな。お前ら、息ぴったりなのは事実だぞ」
その一言に、右京くんのペンがほんの一瞬だけ止まった。ほんの一瞬。ほんの数秒。そして、右京くんはゆっくりと部長のほうに視線を向けながら、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
「…部長、まじでどっか行っててください」
いつもの冷静さが崩れた声に、逆にこっちの心臓が跳ねる。
「はははは、とにかく俺は期待してるぞ~!」
部長は楽しそうに笑いながら、QAこれ以上怒らせんなよ、と最後にそれだけ言い残して、ひらひらと手を振ってラボを出て行く。扉が閉まった瞬間、空気が一気に軽くなったようで、同時に妙な静けさが落ちた。
う、右京くんが顔を真っ赤にしている……。
じーっと見つめていると、私の視線に気づいた右京くんが片手で顔を隠した。
「なに?」
「……ううん、なにも」
あつい、と言いながら首元をパタパタと手で仰いでいる右京くん。私も、私で顔が熱い。さっきからずっと熱いままだ。
右京くん、なんでそんな顔するの?勘違いじゃない?少しは、私にも望みがあるって思ってもいい?こういうときだけ、ずるいよ。
言葉にできないまま、喉の奥に引っかかる。
「「「(お前ら早く付き合えよ…)」」」
周りの研究員たちが、資料を見たりモニターをいじったりしながらも、明らかに視線だけこちらに向けているなんてことは、知る由もなく。