彼と彼女の、最大の不具合
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ピッ、と小さな電子音が鳴った瞬間、ラボの空気がわずかに張りつめた。
遠心分離機の停止ランプが点灯し、温調槽の温度ログが安定域に収束していく。
「……できた、かも」
思わず漏れた声に、自分でも驚く。隣で右京くんが無言のままデータをスクロールしている。その横顔はいつも通り冷静なのに、わずかに指の動きが速い。
「粘度カーブ……想定レンジ内、乳化粒径、ばらつき減ってる」
低い声で読み上げられる数字が、現実味を帯びていく。まだ信じきれないまま、私はビーカーをそっと持ち上げた。透明感のある乳白色。ゆっくり傾けると、とろりと流れて、それなのに重さがない。
「(これ……)」
指先に少しだけ取って、手の甲に伸ばす。触れた瞬間にほどけるのに、すぐに薄い膜を残して密着する。あの、ずっと探していた感触。
「……これだ」
小さく呟いた瞬間、右京くんの手が止まった。
「今のロット、スケール想定でも再現性いける。QAの安定性試験、通る可能性高い」
その言葉で、やっと現実が追いついてくる。
成功、かもしれない。