彼と彼女の、最大の不具合
昔の自分ならこんなふうに一人に振り回されることなんてなかったはずなのに、と頭のどこかで冷静に考えている自分がいる一方で、それでも否定できないくらいにはもう手遅れ。
「早く言ったほうがいいぞ?香坂さん、モテるんだから」
軽く続けられたその一言に、さっきまでぼんやりしていた胸の奥が一瞬だけ鋭くチクリと痛んで、思わずグラスを持つ指先に力が入る。
「…俺だって分かってる」
「なにが不安なんだよ?」
すぐに重ねてくるその問いに、即答できない自分がいる時点で答えなんて決まっているようなものだ。
全部だ、何もかもが不安で仕方ない。
仕事ではあいつは誰よりも強くて、迷いなく前に出て、納得するまで絶対に引かない頑固さを持っているくせに、ふとした瞬間にだけ見せる妙に脆い顔がある。
その落差に気づいてしまった時からずっと目が離せなくなっていて、でもその顔を知っているのが自分だけじゃないかもしれないと思った途端に胸の奥がざわついて、息が詰まりそうになるくらいには余裕がない。
「第一、香坂は俺のことを恋愛対象として見ていないと思う」
口に出してしまえば、その言葉がそのまま重さを持って胸の奥に落ちていく感覚があって、言わなきゃよかったと思ってももう遅い。