彼と彼女の、最大の不具合
霧島は一瞬だけ何かを測るように黙り込んで、それからわざとらしく大きなため息をついてみせた。
「お前さ、それ本気で言ってんの?」
「本気も何も、実際そうだろ?」
香坂から今まで俺への好意らしい好意を向けられた記憶はないし、いや正確には表情には全部出てる気がするけど、それを都合よく解釈していい立場でもない。
仕事中に顔を合わせればほぼ確実に言い合いになるような相手をわざわざ恋人にしたいなんて思うとは考えにくいし、むしろ面倒なやつだと思われていても不思議じゃないとすら思っている。
そこまで一気に言い切った瞬間、霧島が持っていたグラスをコトンと静かにテーブルに置いて、それまでの軽い空気を一瞬で消すように、じっと真っ直ぐこっちを見てきた。
その視線から、次に何を言われるのか分かっているはずなのに逃げられなくて、ほんのわずかに喉が乾くのを感じながら、無意識に視線を逸らすことすらできずにその場に縫い止められている自分がいた。
「……お前、マジで仕事できるくせに恋愛だけ鈍いの何なん?」
呆れ半分で面白がるような声音で言われて思わず眉をひそめる。
「は?」
「いや、好意がないって結論に飛ぶの早すぎだろ。普通さ、あそこまで毎回ぶつかってんのに一緒にやってる時点で、相当だぞ」
「それは仕事だろ」
けれど自分でもわかるくらいその声はわずかに硬くて、ほんの少し遅れて胸の奥に違和感が広がる。霧島は案の定そのわずかな揺れを見逃さずにニヤッと口角を上げた。