彼と彼女の、最大の不具合
「まぁいいや。じゃあさ、仮にだよ?」
わざとらしく話を転がしてくるから、「仮に?」と聞き返した時点で嫌な予感しかしない。
「香坂さんがお前のこと、ほんのちょっとでも気になるって思ってたらどうすんの?」
軽く投げられたその一言に、喉の奥が一瞬きゅっと締まったみたいに息が止まる。
そんな可能性を一度も考えたことがないわけじゃない。むしろ何度も頭をよぎっては、そのたびに現実的じゃないと切り捨ててきた。
期待したところで意味がないと自分に言い聞かせてきたはずなのに、こうして他人の口から改めて言われると、どうしてこんなにも簡単に揺らぐのか自分でもわからない。
「……ないだろ」
短く返す声は思ったよりも低くてわずかに固い。その響きが逆に自分の中の迷いを露呈しているみたいで余計に苛立つ。
霧島は小さくため息をついてからグラスを軽く揺らし、氷がカランと乾いた音を立てる。
「お前さ、それ、ないって決めつけて安心してるだけじゃね?」
「…っ、」
「楽なほうに逃げんなよ、天音。仕事だってそうだろ?お前、いつもどういうつもりで香坂さんと喧嘩してんだよ?」
重ねられた言葉に、胸の奥に押し込めていた何かがじわじわと浮かび上がってくるのを感じる。
あいつと向き合うとき、いつも本気で絶対に引かないと決めてぶつかっている。
それは仕事だからだと何度も自分に言い聞かせてきたけど、本当にそれだけなのかと問われた瞬間、言い切れなくなる自分がいる。