彼と彼女の、最大の不具合
「香坂さんを誰にもとられたくないんだろ?だったら一度、いつものようにぶつかってみるべきだろ?」
霧島は楽しそうにそう言って、こっちの迷いなんて最初から見透かしているみたいに肩を揺らして笑う。
その軽さに、内心で何度目かわからないため息をつきそうになる。俺もお前みたいに何もかもを楽観的に受け止められたらどれだけ楽かと、これまで何度思ったことか分からないし、きっとこれからも同じことを思い続けるんだろうと思う。
「大体考えすぎだわ。イケメンでスタイルいいし仕事もできる。女性社員からはアイドルのような眼差しを一心で受けてるくせに、甘ったれんなよ。こっちの身にもなれ!」
「なんだよ、それ」
半ば八つ当たりみたいに続けられた言葉に、思わず顔をしかめる。
そんなふうに言われたところで実感なんてまるでないし、むしろだからこそ余計に現実感がなくて、他人からどう見えているかと、自分がどう思っているかの間にあるズレが余計に感覚を鈍らせていく気がする。
それでも霧島の言葉はやけに真っ直ぐで、誤魔化しも逃げ道も与えてくれなくて、結局は自分がどうしたいのかを突きつけられているだけだとわかってしまう。
グラスに残った酒を一気にあおっても、胸の奥に溜まったものは少しも軽くならなくて、むしろさっきまで無理やり押し込めていた感情が、じわじわと形を持って浮かび上がってくるみたいで落ち着かない。
付き合いたい。彼氏になりたい。独り占めしたい。
香坂を前にすると、呼吸のリズムすら狂う。心臓がやけにうるさくて、頭の中の冷静な部分が簡単に追い出されていく。