彼と彼女の、最大の不具合
誰にも見せたくない。誰の目にも映ってほしくない。俺だけでいい。
そんな言葉が浮かんでは消えて、消えたそばからまた形を変えて戻ってくる。こんな重い感情を、香坂にそのままぶつけたらどうなる。受け止めきれるはずがない。困らせるだけかもしれないし、最悪、距離を置かれる可能性だってある。それでも、抑え込もうとするほどに意識の奥からせり上がってくるものがあって、もう自分でも制御できないところまで来ている気がする。
「(……俺が無理なら、いっそ誰のものにもなるな)」
喉の奥で形になりかけた言葉を飲み込んで、残りのビールを一気に流し込む。
「あー…なんで俺は今、お前と飲んでるんだよ」
「はぁっ!?天音が呼んだんだろー!」
…そうだけど。
さっきからずっと、頭の中を占めているのは香坂のことだけで、笑った顔も、真剣な顔も、ふとした拍子に見せる隙のある表情も、全部が勝手に浮かんでは消えない。
霧島の声がまだ何か言っているのはわかるのに、もう半分も入ってこない。
「(…………………やばい)」
やっぱり、香坂に会いたい。
顔が見たい。
声が聞きたい。
…………早く、俺のこと、好きになってほしい。