彼と彼女の、最大の不具合
居酒屋を出ると、春の風が生暖かくて、酔いが回った体にじんわりと染みた。
「まあ、頑張れよ天音。言っとくけど、まじで考える時間あんなら告ったほうが早いからな!お前らは!まじで!」
俺以上に酔っている霧島にバシバシと背中を叩かれる。
やめろ、と言いたいところだが、視界が少し揺れていて、何を言われているのかも半分くらいしか入ってこない。
適当に手を振って流したまま改札へ向かい、そこで霧島と別れる。
電車に乗ると、揺れがやけに心地よくて、そのままぼんやりと窓の外を眺める。街の光が流れていくのを追いながら、頭の奥ではずっと同じことが回っている。
香坂に会いたい。会って、ちゃんと話がしたい。仕事のこともそうだが、それ以上に、もうそろそろ自分が香坂を好きだということを、いい加減気づいてほしい。
最寄り駅について、フラフラのまま改札を出て、そして、ふと周りの景色を見た瞬間、足が止まった。
ダラダラと流れてくる汗。振り返って、駅を見た瞬間に確信して余計焦った。
「(……ここ、香坂の最寄り駅じゃねーか!)」
自分に呆れるというか、もう怖い。酔っていて間違えたのか、それとも無意識に足が向いたのか、どっちにしろ言い訳にならない。
「……終わってる」
小さく吐き捨てるように呟いて、頭をぐしゃっと掻く。もし今ここで会ったりなんかしたら確実に引かれる。いや、引かれるどころじゃ済まないかもしれない。どう考えてもアウトだ。
「(帰れ、今すぐ)」
自分に呆れてしょうがないのに、香坂に会いたい気持ちだけが増していく。
いい加減にしろ、ほんと。
やけに体が重い。さっきまでの酔いとは別の意味で、頭がぐらつく。
「(……しっかりしろよ、俺)」