彼と彼女の、最大の不具合
香坂は一瞬、完全に止まったみたいにこちらを見ていて、その顔が少しずつ驚きに変わっていく。
香坂から返事がなくて戸惑う。
…今する話じゃなかったよな、と自分に呆れてため息をついた瞬間だった。
「あれ…私と行くつもりだったの?」
「は?」
「社交辞令かと…忘れられてると思ってたし…」
待て待て待て。香坂の中での俺の立ち位置ってほんとにどうなってんだよ。そんな軽い男だと思われてんのか。さっきまでの動揺なんて跡形もなく消えて、代わりに妙なイラつきだけが残る。
「香坂の中で、俺ってそんな風に見えてんの?」
気づいたら、少し強い口調でそう言っていた。すると香坂は明らかに動揺したように目線をあちこちに動かす。
「そういう…こと、じゃなくて、」
言葉がまとまらないまま途切れる。その姿を見ていると、仕事中のあの鋭さとはまるで別人で、こういうたまに出るスイッチオフの香坂を、他の誰かに見せたくないと思ってしまう。
「(……可愛いけど、それだけじゃ足りない)」
その上目遣いも、言い淀む癖も、全部だ。独り占めしたい。
「仕事終わっても先に帰んなよ」
気づいたら耳元でそう呟いていた。香坂の顔が一気に赤くなるのが見えて、逆にこちらのほうが息を詰める。
少しは、俺のことを考えて仕事が手につかなくなるくらい意識すればいい。