彼と彼女の、最大の不具合
なんとなく落ち着かなくて、足元の感覚だけが妙に現実的に感じられる。
香坂とこうして商品棚の前に並んで立っているのは、よく考えたら初めてだった。会社帰りに一緒にいるといっても、決まって居酒屋で軽く飲むだけ。それ以外の時間を、こういう仕事の延長のようでいて仕事じゃない空気の中で過ごすことはなかった。
もしかしたら、自分が足りていなかったのはこういう時間なのかもしれない、とぼんやり思う。
自分たちで作ったスキンケア商品を目の前にしているのに、仕事の達成感よりも、隣にいる香坂の横顔ばかりが気になってしまう。
「ねえ、右京くん。この後時間ある?」
「ん?」
香坂は少しだけ身を乗り出すようにしてこちらを見た。
「飲みに行かない?」
「……いいけど」
少し遅れてそう答えると、香坂はぱっと表情を明るくした。その一瞬の変化が、やけにまぶしくて、逆に目を逸らしたくなる。さっきの「俺ってなに?」という問いは、まだどこかで引っかかったままだ。
答えなんて求めていないはずなのに、求めてしまった自分がいる。
香坂は何も気にしていないように見えるのに、自分だけが勝手に足を踏み外しているような感覚だった。
それでも、今さら引き返すこともできないまま、スキンケアの棚の前を離れ、自然と出口へと向かって歩き出す。香坂の歩調はいつも通りで、隣を歩く距離もいつも通り。けれど、そのいつも通りの中に、自分だけが妙な違和感を抱え込んでいることが、どうしようもなく気に障っていた。