彼と彼女の、最大の不具合
いつも通り、個室居酒屋ひとときに足を運んで、隣同士に腰を下ろす。
ようやく一息つけるはずなのに、胸の奥のざわつきはなかなか消えてくれない。とりあえず最初のビールを頼んで、届いたジョッキを軽くぶつけ合う。
「お疲れ」
短くそう言って乾杯を交わし、冷えた液体を喉に流し込むと、少しだけ思考が緩む気がした。
「やっぱり自分たちで作った商品並んでるの見たら、何とも言えない気持ちになるなぁ」
隣で香坂が、無防備な仕草で枝豆の殻を指でつまみながらぽつりとこぼす。
「何とも言えないって?」
わざと軽く返すと、香坂は少し考えるように視線を泳がせたあと、「むず痒いっていうか、なんていうか?」と曖昧に笑う。
まあ、言いたいことは分からなくもない。自分たちが研究開発部で試行錯誤して作り上げたものが、こうして商品として世に並んで、人の手に取られていく。それは誇らしいはずなのに、どこか現実味がなくて、落ち着かない気持ちになるのも理解できる。
でも、もう何度もヒット商品を出しているのだから、今さらそんな初々しい感想を持たなくてもいいのに、と思ってしまう自分もいる。
思わず小さく笑って、ジョッキを傾けてビールを一気に流し込む。
「あのね、右京くん」
不意に呼ばれて、喉を鳴らしながら「ん?」と返す。
「…なんで今日、ちょっと怒ってたの?」
その一言で、さっきまで少しだけ緩んでいた空気が、また一瞬で張り詰める。
「え?」
とぼけた声を出すと、香坂は少しだけ視線を落としながら、「…なんか、イライラしてたから」と続けた。
「……それは」
言いかけて、言葉が詰まる。
理由なんて、単純すぎるくらい単純だ。
香坂が、俺のことを特別に見ていないって、改めて突きつけられた気がしたから。ただそれだけなのに、それをそのまま口に出せるほど、素直にもなれない。香坂は不安げな目でこちらを見上げている。