彼と彼女の、最大の不具合
「(……するいんだよ、その顔)」
かわいい。全部が。何もかもが。一番、かわいい。
ふとした仕草も、困ったように揺れる視線も、無防備に緩む口元も、その全部が。この顔だけで、冗談抜きでビール十杯はいける、なんてどうしようもないことを考えてしまうくらいには。
もし、そんなことを思ってるって知られたらどうするんだよ——いや、常日頃思ってるけど!
そんな感情を押し込めるみたいに、手にしていたジョッキをぐっと傾けて、残っていたビールを一気に飲み干す。冷たいはずの液体が、なぜか妙に熱を帯びて喉を通っていく気がして、余計に落ち着かなくなる。
「ちょ、大丈夫!?」
焦った声がすぐ隣から降ってくる。
大丈夫なわけないだろ。口に出せるはずもなくて、ただ曖昧に息を吐く。
なにも、大丈夫じゃないよ、香坂。
頭の中はぐちゃぐちゃで、整理なんてつかないまま、カウンターの上に腕を組んで、その中に顔を埋めた。
視界を閉ざしても、隣にいる気配だけははっきり分かる。
気づいてほしい。知ってほしい。同僚なんかじゃなくて、ちゃんと、俺を見てほしい。
香坂の隣に立つのは、誰かじゃなくて——俺がいい。俺がいいんだよ。
「…かわいい」
「え?」
腕に顔を乗せたまま、少しだけ顔を横にずらして香坂を見上げる。近くで見るその表情が、やっぱりどうしようもなく可愛くて、余計に歯止めがきかなくなる。
「香坂が、一番かわいい。俺がいい。俺にしてよ、香坂」
「…っ、何言って」
動揺した声と、わずかに揺れる瞳。それでももう引き返せない。