彼と彼女の、最大の不具合
「俺が付き合いたい」
ゆっくり上半身を起こして、真正面から香坂を見る。頬が赤く染まっていて、目もどこか潤んでいる。その表情に、自分の心臓の音がさらに大きくなるのを感じる。
たぶん、完全に酔ってる。でも、それを言い訳にしたくないくらい、本音だった。
もうどうでもいい。どう思われてもいい。ただ、このまま何も言わずに終わる方が、ずっと嫌だ。
カウンター越しの視線や周りのざわめきを気にする余裕もなくて、そっとテーブルの下で手を伸ばし、香坂の手を探る。触れた指先は少し冷たくて、それを包み込むように握った。
「香坂、俺にして」
お願い。俺にしてよ。
掴んだままの香坂の手をそっと引き寄せて、自分の頬に摺り寄せる。ひんやりとした指先が触れた瞬間、胸の奥に溜まっていた熱が一気に溢れそうになる。
そのまま時間が止まればいいのに、なんて本気で思った次の瞬間、香坂が急にその手を引いて、ぐいっとビールをあおり始めた。グビ、グビ、とやけに勢いよく喉を鳴らして、空になったジョッキをカウンターに強めに置く。
「…右京くんこそ、私のことなんだと思ってるの?」
「はぁ?」
さっきまで戸惑っていたはずの香坂の目は、今は少し潤んでいるのに、どこか据わっている。そのまま店員を呼んで、俺と自分の分のビールを追加で注文する仕草も、いつもよりずっと雑で、感情が隠しきれていない。
「いつも私のいうことに突っかかってくる!と思いきや、助けてくれて、結局いいもの作っちゃうしさ!」
一気にまくし立てるように言われて、思わず眉をひそめる。
「(……急になんだ?愚痴?)」
頭の中でそんなことを思うけど、口には出せない。香坂は止まらない。