彼と彼女の、最大の不具合
「(……かわいい、無理)」
心の中でそう呟いた瞬間、全部どうでもよくなりそうになる。
さっきまでの苛立ちも、噛み合わない言い合いも、全部まとめて吹き飛びそうなくらい、目の前の香坂しか見えなくなる。
ほんと、なんなんだよ。こんな状況でさえ、結局そう思ってしまう自分が、一番どうしようもない。
「だいたいね!いつもかっこよくてずるい!なんなのそれ!」
勢いよく指をさされて、一瞬ぽかんとする。
かっこいい?俺が?そんなこと、こいつ本気で言ってんのかよって思うのに、顔はたぶん一気に熱くなってる。
「そんなんこっちだって!いつも香坂のことかわいいと思ってんだわ!てか、さっき言ったよな!?」
思わず言い返すと、香坂はさらに眉をつり上げる。
「私じゃなくて、今は右京くんのはなししてるの!論点すり替えないで!」
「はあ?」
意味が分からない。いや、ほんとに分からない。なんでこんな話になってるんだよ。
ふたりしてほとんど同時にジョッキを掴んで、そのまま一気にビールを飲み干す。
喉を鳴らす音が重なって、空になったジョッキがカウンターに置かれる音まで同時で、なんかもう笑えてくるのに、どっちも全然笑ってない。