彼と彼女の、最大の不具合
自分の頬が少し熱いのを感じながら、私は慌てて視線を手元の資料に落とした。
——集中、集中。
「品質と納期、どっちも大事…ね」
右京くんの言葉が頭の中で反芻される。悔しいけど、言ってることは間違ってない。むしろ正論だ。
今回の処方は、私が主導で進めている高保湿ラインの新製品。試作段階では過去最高レベルの保湿力を叩き出しているけれど、その分どうしても安定性と製造コストに難がある。
「いいものでも成立しなければ意味がない、か…」
ぽつりと呟く。右京くんの口癖。聞き飽きたはずなのに、なぜか今回は妙に引っかかる。
資料をめくりながら、問題点を一つずつ洗い出していく。
粘度、温度耐性、充填工程でのロス率…。
「……あ」
指が止まった。ここ、かもしれない。
成分Aの配合比率をほんの少し下げて、その分を類似構造の成分Bで補う。理論上、保湿力の低下は最小限に抑えられるし、安定性は上がる。コストも少し下がるはず。
「でも…これ、右京くん絶対気づいてたよね」
思わず苦笑する。
右京くんは、たぶんもう一歩先まで見えてる。
なのに、わざわざ「香坂も頼むよ」なんて言ってきたのは——
「……何それ、ずる」
自分で気づかせるため、か。悔しい。でも、ちょっと嬉しい。
ペンを走らせて修正案をまとめていると、不意に背後から声がした。
「いい顔してんな」
「……!?」
びくっと肩が跳ねる。振り返ると、そこにはコーヒー片手の右京くん。