彼と彼女の、最大の不具合
「な、なんで戻ってきてるの?」
「資料取りに。で、どう?見直し進んだ?」
私は一瞬だけ迷ってから、さっきまとめたページを差し出した。
「……ここ、調整すればいけると思う」
右京くんは無言でそれを受け取って、目を通す。数秒。
やがて、彼は小さく息を吐いて——
「やっぱりそこだよな」
「やっぱりって何!?」
思わず声が大きくなる。すると右京くんは、少しだけ意地悪そうに笑った。
「気づくだろうなと思ってた」
「……っ!」
悔しい。完全に読まれてる。でも。
「いい線いってる。これなら品質も落ちないし、ラインも回せる」
そう言って、ぽん、とまた頭に手が乗った。今度はさっきより優しくて、少しだけ長い。
「ナイス、香坂」
「……っ、あ、当たり前でしょ」
慌てて顔を逸らすけど、たぶん耳まで赤い。ほんと、この人は。仕事ではこんなに冷静で合理的なのに、こういう時だけずるい。
「じゃ、これベースに詰めるか」
「うん…」
並んで資料を覗き込む。さっきまでぶつかっていたはずなのに、不思議と空気は悪くない。
ちらっと横を見ると、真剣な横顔。長いまつ毛に、すっと通った鼻筋。
「……。」
ダメだ。やっぱり顔がいい。
「香坂、ここもう一段詰められる?」
「はっ!?あ、うん!」
慌てて視線を戻す。
——ほんと危ない。仕事中なんだから、ちゃんとしなきゃ。
そう思いながらも、心のどこかで少しだけ期待してしまう。
「(……もっと、隣にいたいな)」
そんなこと、口が裂けても言えないけど。