彼と彼女の、最大の不具合
「(……ほんと、なに?)」
状況が理解できなくて、頭の中が一気に混乱する。このままここにいたらまずい気がして、反射的に香坂の手をつかんで、そのままオフィスの外へ連れ出した。周りの視線なんて気にしている余裕はなかった。
「(いや、かわいいけど…なんだよその顔…なんで泣きそうになってんの?)」
心の中でそんなことを思ってしまう自分にも戸惑いながら、とにかく人のいない場所まで歩く。
やっと足を止めて振り返り、改めて香坂の顔をしっかりと見る。頬は赤いままで、視線はどこか泳いでいて、少し気まずそうに唇を開いた。
「…昨日、私、なにもしてないよね?」
「昨日?」
聞き返すと、香坂はこくんと小さくうなずいてから続ける。
「乾杯してからの記憶がなくて…どうやって帰ったのかも、全然分からないの」
そう言いながら俯いて、でも不安そうにこちらを見上げてくる。その上目遣いに、一瞬思考が止まりそうになる。
「(不意打ちすぎだろ、その目…破壊力高すぎ…)」
なんて場違いなことが頭をよぎるけど、すぐに我に返る。
いや、そんなこと考えてる場合じゃない。…というか、香坂も記憶がないのか。