彼と彼女の、最大の不具合
「悪いけど、俺も覚えてないんだよ」
後頭部をガシガシとかきながら正直にそう言うと、香坂の表情がさらに崩れていく。今にも泣き出しそうで、というかもう半分泣いているみたいで。
「なにか、大事なこと言われた気がするのに…っ!なんで覚えてないの〜っ!?」
子どもみたいに感情をむき出しにするその姿に、思わず頬が緩んでしまう。こんな顔もするんだな、なんて思ってしまって。
…やっぱり、かわいい。俺のほうも、何か大切なことを忘れているような、そんな妙な感覚がずっと胸の奥に残っている。でも、こうしていつも通り…いや、いつも以上に表情豊かな香坂を見ていると、それだけで少し安心してしまう自分がいる。
…だめだな。こんなんじゃ。早く言わないといけないのに。ちゃんと、香坂に。好きだって。
その一方で、ラボの中では、さっきまで普通に仕事をしていたはずの二人が手をつないで出ていったのを目撃した研究員たちが、こそこそと顔を見合わせながら、
「(絶対なにかあったよな…)」
「(あれはもう…そういうことだよね)」
「(ついにか…)」
なんて、生ぬるい視線と妙な納得を共有していることを——当の本人たちが知るのは、もう少し先の話。