彼と彼女の、最大の不具合
そっと顔を上げて、向かいに座る右京くんを資料越しにちらりと盗み見る。
…うん、いつも通り。驚いてる様子も、特別な感情が見えるわけでもなくて、資料に目を通しているだけ。
「(…右京くん、なんとも思わないのかな)」
その落ち着きっぷりに、少しだけ拍子抜けして、同時にほんの少しだけ胸の奥がチクッとする。私だけがこんなに意識してるみたいで、なんだか悔しい。…いや、悔しいってなに。
ひと月くらい前、右京くんと飲みに行ったあの日から、ずっと忙しかった。今回の外部ラボとのコラボ商品の準備で打ち合わせ続きで、ゆっくり話す時間なんてほとんどなくて、気づけば仕事中の右京くんばかり見ている気がする。
「(……足りない。右京くんが、足りない…)」
プライベートでの、少し気の抜けた表情とか、ふいに優しくなる声とか、そういうのを全然見れていない気がして、なんだか無性に落ち着かない。私の糖分が圧倒的に不足している。
なのに、この前の飲みは——あろうことか、飲みすぎてほとんど記憶が飛んでいる。
「(……絶対、なにか大事なこと言われた気がするんだけどなぁ…)」
断片的に残っているのは、右京くんの少し低い声と、やけに近かった距離感と、それから——胸がぎゅっとなるような、何か。でも、それが何なのかがどうしても思い出せない。私が何を言ったのかも、右京くんが何を言ったのかも、肝心なところがすっぽり抜け落ちている。
「(最悪…)」